奢らないで

実は、奢ってもらうのが苦手である。

500円くらいならまぁ許容範囲かな、と思って素直に喜べることもあるが、1000円を超えると心がざわざわどよどよしてしまう。

 

遡ること6年前。

それは18歳の春のこと。引っ越して間もない頃だった。

新幹線の通路側に座っていた。私は少しうとうとしていた。

「あの、次で降りるので、席、変わってもらえませんか」

と窓側から声がした。

「あ、私も次なので大丈夫です。ちゃんと起きますよ」

 

というのをキッカケに、隣の席の人となんとなく世間話をした。

 

目的の駅で降車した後、

「美味しいお店を知っているので、良かったら一緒に食べに行きませんか」

と誘われる。

 

今ならわかる。

これはいわゆるナンパである(この時は気づかず、あとから気づいた)。

 

世間知らずにも程があるのだが、まぁそんなわけでご飯の誘惑に負けた私は、その人の案内で夕飯を食べた。

 

「僕は医者なんだ。お金はあるから好きなもの頼んでいいよ」みたいなことを言ってくれちゃったりなんかしてくれて、奢ってくれた。

未成年だからジュースだね、みたいなことを言う辺りは紳士的であった。

 

まぁしかしこれはナンパなので、そのあと順当にホテルに誘われるのである。

 

気が動転した私は

「あの!寮の!門限が!あるので!帰ります!」

と言い放ち、夜の闇の中へ一目散に逃げてゆくのであった。

 

あぁ、万事休す。

微妙に演出を挟み小説感を出してしまった。

 

というわけなのである。

(どういうわけだ?)

 

知らない人にはついていかない、というのが普通の教訓である。

しかし同時に、奢ってもらうということは、対価を要求されても仕方の無いことなのだ、という見方もある。

 

だいたい、知り合いがそんな邪な考えを持っているとは思っていない。

なので本当はそんな心配は無用なのである。

しかしやはり、何かの形で返さないといけないな、良くしてもらったからには返したいな、という思いになってしまう。

 

そういう思いをたくさん抱き続けるのは大変だ。

なので、心の安定のために、自分の食べ物は自分で支払いたいというわけである。

 

そういうことだ。